Home News Nouveau 偶然の出会いが呼び込んだ、最高のチーム?...

Nouveau

偶然の出会いが呼び込んだ、最高のチーム?
本と三木屋と城崎を紡ぐ、ライブラリー空間が生まれるまでの短くて熱い夏。

11月初旬にリニューアルを終えて営業再開した城崎の温泉旅館「三木屋」。凛とした緊張感と心地よさのあるロビー、ライブラリー。本のプロと空間のプロが老舗旅館の十代目と作り上げたそれは、実は出会いからたった2ヶ月で練り直され最高の状態まで仕上がった奇跡のような空間だった。

城崎の街のポテンシャルに魅入られたブックディレクターの幅允孝さん、この街で300年の歴史と文豪の宿と言う看板を背負った若旦那の片岡大介さん、そして偶然その相談を受けたE&Y代表の松澤剛さん。超多忙の三人が東京と城崎を何度も往復しながら、最高のものを作り出した。営業再開当日の朝、その軌跡について話を伺った。>>リニューアルした「三木屋」の紹介記事はこちら


KNS_1793_140110.jpg

写真左から)幅允孝さん、片岡大介さん、松澤剛さん


――旅館のもつ歴史と背景を入り口に、本や未来と出会える場所を目指したかった

幅允孝(以下H): 「ここ(三木屋)にはリニューアル前もライブラリーはあった。けど、以前は志賀直哉の本しかなかったんです。もちろん「三木屋」を象徴するかつての大切な客人だし、ここで素晴らしい短編を書いたのは事実ですが、重要なのは今日来るお客さんが本を手に取りたくなることじゃないか。そう僕は思ったので、本に関する書物を中心にセレクトしたんです。それは本の紹介をする書評と、一方で本を作る側のもの、例えば印刷、装丁、編集に関するものなどです。これが、意外にたくさんある。"本"そのものは売れないと言われてるわりに、本にまつわる事象は今また増えていて......。新しい書き手の人が本というメディアをキーにして作品を作る風潮がある。まずは、そういう新しい風を入れたかった。


例えば、これはジョナサン・サフラン・フォアと言う人の作品ですが、彼がお母さんのルーツであるポーランドの作家ブルーノ・シュルツの本に穴を開けて切ったり繋いでもうひとつ別の物語を作るプロジェクトです。物語を作り替える、物語の再生とかそう言う意味ではここ(三木屋)の話と通じる。彼は『前の世代のものを尊敬はしている、けどそれを褒め称えて終わるのではなく自分の中で血肉化していく行為が本になった』と言っていて。これに近い取り組みが、三木屋でできたらいいんじゃないか、というのが思っていたことですね」
p7-5_KNS_1856_.jpg

ジョナサン・サフラン・フォアの『Tree of codes』の穴空き本。ポーランドの作家ブルーノ・シュルツの作品の言葉を抜き出して、再構成した切り抜き小説。フォアは映画にもなった『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』の作者でもある。

でも実際は、2013年8月の時点で三木屋のライブラリーを含むロビーのリニューアルプランは皆無の状態だった。片岡さんも大分悩んでた。そんな折、東京出張中の片岡さんに、偶然知人のパーティに来ていた松澤さんに紹介したんです。彼なら、と思わせるものがあったんだと思う。10月のオープンを前に、その時点のプランを全て変更し松澤さんに託すことを片岡さんは決めたんです」

――全く決まっていなかった"大手術"を2ヶ月間で敢行した3人の熱意。

松澤剛(以下M):「新築と違ってリノベーションは、例えるなら"移植手術"のような難しさがある。元々300年なりの歴史あるところに"新しい臓器"をいれる。ただ入れ替えるだけの単純なことではない。元々基幹としてある血管や神経が繋がらなければ取り返しのつかない後悔が待っている。背負っている歴史や伝統の分だけ、加減を見極めるが大変。僕は、誰がやるにしても簡単なことじゃないからもっと熟考した方が良いです、それで何かあればSOSください、とだけ片岡さんに伝えました」

片岡大介(以下K):「松澤さんと出会えたものの、リニューアルまではすでに2ヶ月もなかった。待ってるお客さまもいるし、秋から冬にかけては稼ぎ時でもある。考えに考えた結果、このプロジェクトは何十年、ひいてはこの先100年に関わる事だから、再開が押してもちゃんとやるべきだと。悔いは残したくなかった。ご予約いただいていたお客さまに事情を丁寧に説明しご理解いただいた上で、延期を決断しました」

H:「僕は本を選べるけど実際的な空間に落し込むのは松澤さんです。例えば本棚前の照明は、全部図面を引き直した。ロビーとラウンジの照明が違うだけでいい間仕切りになるんですよ」

M:「三木屋というものを幅くんが本で表現しているのを、宿泊者の方とどう接続できるのかが、この空間にかかっています。本、空間、インテリア、土地。全部手を繋いでいるんですよね。だからインテリアひとつで台なしにもなる、難しい仕事ですがやりがいはありました」

p7-1_KNS_1537_.jpg

新しく生まれ変わったライブラリー。長い時間いても心地よい空間ながらも、凛とした雰囲気が漂う。

p7-4_KNS_1845_.jpg

本棚の形状は下段が少し前に飛び出していて、照明が本の背表紙を照らすように調整されている。前に立っても影にならず、高さを抑えて横長にした棚に並ぶ厳選された250冊は、本が威圧的にならず手にとってもらえるよう工夫を重ねたもの。銅板製の特注什器もこだわりの一品だ。

p7-6_KNS_1858_.jpg

片岡さんが読んでいた本は『作家と温泉』と『文豪の家』。旅先で偶然幅さんの作った本棚を観に行って見つけた。それが今年五月で、出会って半年も経ってなく、仕事の話もしていない頃だった。

K:「僕も松澤さんから提案がある度に、できるだけ早く深く自分で考えて、の繰り返しでしたね。毎晩毎晩2時間くらい電話打ち合わせをする、遠距離恋愛と言われるほど密なやりとりが続いて(笑)。ようやくこの日を迎えたんです。

M:「でも、ここからの物語は片岡さんが作る。僕や幅くんにやってもらったってなっちゃいけないんですよ。朝から晩まで、この先何十年と三木屋に滞在するお客さんと片岡さんが作っていくことになるから」

K:「(静かにう頷く)旅館ってゆっくりしにくる所だけど、城崎は外湯めぐりとかやること多くて忙しくて、けっこうせかせかして帰っちゃったとおっしゃるお客様が多いんですよ。せめて、ここではゆっくりして過ごして欲しい。この先、ワインとか出してもいいかもですね」

w170p8-1_KNS_1799_.jpg
【PROFILE】
幅允孝/YOSHITAKA HABA
BACH代表。ブックディレクター。人と本が上手く出会えるよう、様々な場所で本の提案をしている。羽田空港や原宿「Tokyo's Tokyo」での選書や、千里リハビリテーション病院のライブラリー制作など仕事は多岐に渡る。
www.bach-inc.com/
 
 
 

w170p8-2_KNS_1819_.jpg
【PROFILE】
松澤剛/TSUYOSHI MATSUZAWA
E&Y代表。デザインエディター。家具やプロダクトを軸とした国内外のデザイナーの作品をプロデュースする。東京をはじめ、ミラノやロンドンで発表している現コレクションは50点以上。
www.eandy.com/
 
 
 
 



photos:NORIKO YAMAGUCHI texte:MISAKI HATAKEYAMA

« 前の記事 次の記事 »
MAIL MAGANE / ご登録はこちら

What's Hot in figaro.jp